Dynamics 365 は「顧客」を中心として関連レコードを蓄積していくCRMです。全ての中心に来るのは ”顧客情報” です。そのため、たとえサポート案件レコードを作成・記録することだけを主眼で考えていたとしても、中心となる「顧客」レコードをどのように作成するのか、どのように整合性を保つのか、どのようにメンテナンスを実施するのかといった運用は十分な事前設計と検証が必要です。それが出来てから「サポート案件」取り扱いの設計を行います。
顧客情報が社内の様々なシステムに分散してしまうのが嫌であれば、営業案件の管理とSFA、マーケティング、プロジェクト管理、人事、ほぼ全ての社内業務をDynamics 365で一本化するのも一つの現実解です。現在提供されているDynamics 365 はスィートパッケージとして提供されており、これら全ての業務に対して適切なアプリケーションとなる十分な力を持っています。
さて、顧客レコードが適切に準備された段階で、サポート案件の受付が開始されます。次のような流れを想定するとわかりやすいかもしれません。
1.サポート問い合わせが入る(Webや電話、メールなどから)
2.サポート案件レコードを起票
3.サポート依頼者の現在の契約情報を確認する
4.サポート案件を適切な担当者に割り振る
5a.サポート担当者が問題を解決するための活動を行う
5b. サービス担当者が問題を解決するために用意されているサービスを販売・実施する
6.問題が解決された合意を形成し、サポート案件レコードをクローズする
簡単な図で表現したのがこちらです。
一つ一つのプロセスに対し、Dynamics 365のサービスアプリケーションは対応する機能を用意しています。
1.問い合わせを受ける、 2.サポート案件を起票する
電話受付は、指定された電話番号に対してオペレーターを配置し、電話対応します。オペレータは顧客からの問い合わせ内容を聞きながら、必要に応じて口頭対応、またはサポート案件の起票を行います。ここは人間が直接担当するところですので、それほど複雑なオペレーションはありません。
いかに最初の入り口のところで適切な受け答えが出来るか、同様の事案に対する簡単な解決策を顧客に対して示すことが出来るかがポイントです。Dynamics 365の検索機能を使用して、これまでに “類似するサポート案件” を探したり、“サポート情報記事” を検索することにより、適切な形で最初の案内できます。
電子メールでの問い合わせにも対応可能です。Dynamics 365は既存の電子メールサーバーと連携できるので、ある特定のメールアドレスを持つメールボックスを監視し、必要に応じてDynamics 365側に取り込みます。
Dynamics 365で電子メールを監視することにより、自動的にサポート案件のレコードを起票することも出来ます。メールからのレコード起票はサポート案件に限ったことではなく、他のエンティティでも実現可能です。
Webサイトのお問い合わせフォームからサポート依頼を受け付けたいというケースもあるかもしれません。
Dynamics に外部サイトからのサポート依頼を取り込むことも可能です。これに関しては、そのWebサイトがどのような機能を持っているかによって、Dynamics 365へ取り込む方法も開発内容も異なります。Webサイトによっては、問い合わせフォームに記載された内容はメールで担当者宛に出力されるかも知れませんし、ある一定時間分をCSVなどでまとめ処理するシステムもあります。利用しているWebサイトの機能に合わせてDynamics 365との連携を考慮します。一般的に “開発” が必要となるところです。
ここで、是非知っておきたいのは、Dynamics 365で提供されている「ポータル機能」です。
Dynamics 365 Customer Engagement ライセンス購入で、一定以上のライセンス数と条件を満たすと、無償でWebポータル機能を利用することが出来ます。このポータルはMicrosoft Azure上のVMで展開されています。テンプレートが用途別にあらかじめ用意されており、これらを利用すると特別な開発を必要とすることなく「Webサイト」の所有と「Dynamics 365」連携が実現できます。
Dynamics 365 ポータルはレスポンシブで美しいデザインで構成されているだけではなく、機能的にも非常に優れています。それもそのはず、このポータルはカナダのAdxstudio社をマイクロソフトが2016年に買収することにより実現しているからです。Adxstudio社は Adxstudio Portalを2000年代初期のころから提供しており、かねてよりDynamics CRMとの連携ノウハウを豊富に持っている企業として知られていました。 https://www.adxstudio.com/
30日間試用版のDynamics 365環境でもポータルを構成・確認できるので、まだ試したことがない方はお早めに確認されることをお勧めいたします。
余談にはなりますが、今後のDynamics 365ではポータルソリューションが随所で利用されていきます。例えば新しく登場したDynamics 365 for Marketingなどでも、「イベント開催サイト」がポータルソリューションとして付随します。Dynamics 365でイベントを企画すると、その内容の通りに「イベント開催向けWebページ」が半自動で作成されます。顧客からのフィードバックを得ることが出来る「Dynamics 365 Voice of Customer」も同様にアンケートサイトをAzure上のポータルに展開します。
インフォシェアが開催しているDynamics 365トレーニングでは、「Dynamics 365 基礎」コースでポータル機能を取り上げています。是非トレーニングコースの受講をご検討ください。
ここまでで、サポート案件取り扱いの最初のステップである「Webやメールからのサポート案件起票」について取り上げました。次の記事では、問題を解決するときの流れをご紹介いたします。